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千葉地方裁判所 昭和59年(ワ)802号 判決

主文

一  別紙物件目録一記載の土地(別紙図面(1)の〈A〉、〈B〉、〈C〉及び〈D〉と表示された土地)を、別紙図面(1)記載の甲部分(同図面の〈A〉、〈B〉及び〈C〉部分、以下同じ)と乙部分(同図面の〈D〉部分、以下同じ)とに分割し、甲部分の土地を原告の所有とし、乙部分の土地を被告ら及び選定者ら計七名の共有(持分は各自七分の一)とする。

二  被告ら及び選定者ら計七名は、それぞれ原告に対し、別紙物件目録一記載の土地のうち、甲部分の土地につき、分筆登記手続をした上、各自の持分につき、本判決確定の日の共有物分割を原因とする移転登記手続をせよ。

三  被告熱田一は、原告に対し、別紙物件目録三及び四記載の建物を収去し、被告ら及び選定者ら計七名は第一項記載の甲部分の土地及び別紙物件目録二記載の土地を明渡せ。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  申立

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求の原因

一  原告の地位等について

原告は、新東京国際空港公団法に基づき、新東京国際空港(以下「新空港」という。)の設置及び管理を効率的に行うこと等により、航空輸送の円滑化を図り、もって航空輸送の総合的な発達に資するとともに、我が国の国際的地位の向上に寄与することを目的として(同法一条)、昭和四一年七月三〇日に設立された法人であって、右の目的を達成するため新空港の設置及び管理を行うこと等をその業務とするものである(同法二〇条)。

二  本件土地の形状等について

別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の形状及び位置関係は、概ね別紙図面(3)、 (4)に示すとおりであって、次の1ないし3の部分から成る帯状の土地である。

1  新空港予定区域内のうち、横風用滑走路の着陸帯設置予定区域附近(別紙図面(1)において1ないし3、65ないし68及び1の各点を順次直線(赤色)で結んだ範囲の土地、〈A〉部分)

2  同滑走路航空保安施設設置予定区域(別紙図面(1)において3ないし20、38ないし65及び3の各点を順次直線(青色)で結んだ範囲の土地、〈B〉部分)

3  その余の部分(別紙図面(1)において20ないし38及び20の各点を順次直線(黄色)で結んだ範囲の土地、〈C〉、〈D〉部分

三  本件土地の共有持分について

1  本件土地は、もと、菅谷忠良外四九名(総員五〇名)が各自五〇分の一の持分を有する共有地であったが、原告は、別紙持分権譲渡一覧表に記載のとおり、昭和五六年五月一日から同五九年六月二五日の間に、同表譲渡人欄に記載の者から、その各代理人である木村喜重を介して、同欄括弧内に記載の持分を順次売買によって、承継取得し、その旨の移転登記を経た。

このようにして、現在本件土地は、原告が五〇分の四三の持分を有し、被告ら及び選定者ら計七名(以下「被告ら七名」という。)が各自五〇分の一の持分を有する共有地である。

2  被告らは、本件土地の境界が未だ不明確であるから、原告の分割請求は相当でない旨主張する。

しかし、本件土地の多古町側隣接地との境界は争いがなく、また、成田市側隣接地との境界については、本件土地がほぼ全域にわたり土手状の土地で雑木林を形成していたのに対し、成田市側隣接地が本件土地よりも一段と低い平坦な土地で、ほぼ全域にわたり農耕の用に供されており、本件土地と隣接地の地形、利用状況は歴然と異なり、その境界は明確である。被告らは、本件土地の公簿地積と実測地積との差異を言うのみであって、検証の際にも隣接地との境界について具体的な指摘は全くできなかった。

従って、本件土地と隣接地との境界は、明確であり被告らの右主張は失当である。

四  本件土地の分割協議が不可能であることについて

1  新空港の位置が現在のとおり決定された昭和四一年頃から、新空港の建設に反対する人々により空港予定地内の土地を多数の者で共有するいわゆる一坪運動が展開された。そして、本件土地も昭和四二年一一月同運動に供されるに至り、五〇名の共有者による共有地となった。

2  原告は、本件土地の取得に鋭意努力した結果、前記のとおり五〇分の四三の持分を取得することができた。

3  しかし、その余の持分については、被告ら七名が原告の譲渡申し入れに応じないため、被告ら七名の各持分を取得することはもとより、本件土地の協議による分割も不可能となっている。

五  本件土地の分割方法について

原告が、本件土地を別紙図面(1)記載の甲部分(同図面の〈A〉、〈B〉及び〈C〉を合わせた部分、以下「甲の土地」ともいう。)と乙部分(同図面の〈D〉部分、以下「乙の土地」ともいう。)とに分割を請求する根拠は次のとおりである。

1  本件土地は別紙図面(3)、(4)に示すとおり、新空港敷地、同空港の航空保安施設敷地及び騒音区域にまたがって所在し、別紙図面(1)の〈A〉部分の土地は新空港の敷地として、また、同〈B〉部分の土地は航空保安施設の敷地として、原告が空港開設工事を進める上でそれぞれ必要不可欠な土地である。

2  一方、別紙図面(1)の〈A〉部分の土地には、別紙物件目録三及び四の建物(以下「本件建物」という。)が建てられているが、これらは、被告熱田一(以下「被告熱田」という。)が本件土地につき五〇分の四三の持分権を有する原告に無断で、かつ、原告の警告をも無視して建てたものであって、しかも右建物は、同被告の生活の本拠ではなく、新空港建設に対する反対運動の一拠点として使用されているにすぎない。

3  以上のとおり、原告は、本件土地を甲の土地と乙の土地とに分割し、甲の土地を原告単独の所有地として確保する必要がある。

六  本件建物の所有と土地の占有について

1  被告熱田は、新空港建設反対運動のため、昭和五九年六月末頃、三里塚芝山連合空港反対同盟(以下「反対同盟」という)の名のもとに、本件建物を建築し、これを所有している。

2  本件建物の所在及び位置関係は、別紙図面(2)に示すとおりであり、本件建物の大部分が本件土地の〈A〉部分上に、また、若干の部分が、原告の所有する別紙物件目録二の土地上にまたがって存在している。

七  よって、原告は、〈1〉本件土地の共有持分権に基づき、本件土地を甲の土地と乙の土地とに分割することを求めると共に、〈2〉右分割による所有権に基づき、被告ら七名に対し、甲の土地について、分筆登記手続の上被告ら七名の同土地に対する各持分につき、本判決確定の日の共有物分割を原因とする移転登記手続、〈3〉被告熱田に対し、右分割による甲の土地の所有権及び原告の別紙物件目録二の土地の所有権に基づき本件建物の収去並びに〈4〉被告ら七名に対し、右各所有地の明渡を求める。

第三  請求の原因に対する被告らの答弁

一  請求の原因一のうち、新東京国際空港公団法一条、二〇条に原告主張の趣旨の規定があることは認め、その余は争う。

二  請求の原因二の事実中、本件土地の形状が、概ね別紙図面(3)、(4)に示すとおり、帯状の土地であることは認め、その余を否認する。

三1  請求の原因三の1のうち、本件土地がもと総員五〇名の共有地(持分均等)であったこと、被告ら七名が本件土地につき、各自五〇分の一の共有持分権を有することは認めるが、その余の事実は否認する。

2  本件土地の範囲は、次に述べるとおり不明確である。

(一) 共有物を現物分割しようとする場合には、分割の目的たる土地そのものが現実に特定し、その境界線が明確でなければならないことは自明の理である。ところが本件では、検証・鑑定を経ても未だ境界が不明確であることは、鑑定人中野裕弘の証言からも明らかであり、このままでは現物分割は実行できないと言わざるを得ない。とりわけ本件土地のように、公簿面積と実測面積とが、なんぴとも経験したことがないくらい大きく食い違っている場合にはなおさらのことである。

(二) 本件土地の成田市側隣接地との境界を明確に指摘できないのは、隣地耕作者らが継続的に本件土地を侵触してきたため境界を示す痕跡を見い出すことができないからである。原告は、鑑定図面より境界が確定しうるかのように主張するが、鑑定人は現場において境界を発見するための作業は一切行っておらず、原告の作成した図面に基づいてのみ鑑定をしたにすぎず、そのために通常では考え難い公簿面積と実測面積との差異を何ら説明できないのである。鑑定人としては、払下図面若しくはそれに近接した時点に作成された図面等を発見するか、あるいはそれが不可能であれば、公簿上の面積と実測面積との相違について公図等を参考としつつ本件土地を含めた周辺土地一体について境界を確定していく作業をしなければならなかったはずであるのに、それらは全くされていないのである。そして、原告の行った測量も地権者等の利害関係人らの立合を求めることなく、かつ、本件土地の払下時における図面等も何ら参酌することなく全く任意の点を選択してその点を基にして測量したにすぎず、到底境界を確定するに足りる証明力はない。

3  原告が主張する持分権の売買は存在せず、また、原告のいう持分権の売買契約の代理人木村喜重は、その代理権を有していなかったものである。

原告は本件共有地の共有持分権を売買により取得したと主張するが、原告と各持分権者との間に真実売買契約が存在していたかは極めて疑わしく、単に登記上の変更があったに過ぎない。

すなわち、(1)木村喜重あて委任状・登記用の委任状・印鑑証明書等を各共有権者から徴収しているが、それらはいずれも原告職員が徴収したものであって、代理人とされている右木村喜重が徴収したものではないこと、(2)売買代金は原告より木村喜重には支払われたかも知れないが、ほとんどの共有者は売買代金を受領せずに、せいぜいビール券位しか貰っていないこと、(3)原告に権利を譲渡したとされている共有者も、また、それらの代理人とされている木村喜重自身も、本件土地の県からの払下げの経過(部落共用道路の設置が目的)や、三里塚空港反対闘争に係わってそれが共有化された経過、その際に木村喜重が勝手に設定した担保が反対同盟の立替払いによって抹消された経過などからして、第三者、とりわけ原告には売却してはならないし、分割してはならない土地であることを十分に知っていたこと、(4)原告も本件土地の共有化の経過や共有化に際して共有者間で第三者、とりわけ原告には売り渡してはならない特約や不分割の特約があったことを知っていたはずである。

また、原告の持分取得が売買であるならば、売買代金の存在が不可欠である。ところが、原告の職員らは各共有者からの木村喜重あての委任状を用意するに際して、「念書」と題して「私は、貴殿に下記記載の土地の私名義の共有持分について、新東京国際空港公団との売買契約等については委任しましたが、それに係わる土地代金、補償等については、貴殿に請求いたしません。」との文書まで作成しているのである。このことから明らかなように、原告はそもそも各共有者には金を支払う意思が当初から全くなかったのである。何故ならば、売買契約等の委任状には、「私は、上記の者を代理人と定め、新東京国際空港公団が取得する下記記載の土地売買に伴う契約並びに土地代金、補償金等の請求及び領収に関する一切の権限を委任します。」と記載されており、本来ならば、代理人木村喜重が原告公団より売買代金を受領すれば、委任者である各共有持分権者は代理人木村喜重に対して預り金返還請求権をもつところ、前記「念書」では代理人に対する預り金返還請求権を予め放棄させているからである。そして実際にも、原告から共有者らへはビール券しか渡されていないのである。これは、公団の会計においては、用地取得費以外の費目として支出されていると思われる。

このような右事実からすれば原告は本件土地につき、被告ら以外の共有者から単に登記簿上の名義を取得したのみで、売買契約により実体的な権利(持分権)まで取得したとは到底言えない。

四  請求の原因四のうち、1、3を認め、2は否認する。

五  請求の原因五の主張は争う。

六  請求の原因六のうち、本件建物が昭和五九年六月末頃建築されたことは認め、その余は否認する。本件建物は、反対同盟が建築したものである。

第四  被告らの主張

一  持分権譲渡禁止及び分割禁止の特約

1  本件土地の共有関係の発生経緯

(一)(1) 本件土地は、もと国が所有し御料牧場として使用されていたものであるが、昭和八年三月二〇日、千葉県が国から払下げによってその所有権を取得した。

(2) 本件土地周辺の田畑の耕作者であった丹波山部落住民は、昭和三〇年頃、本件土地の形状(長大な土手地)を生かしてこれを道路とすること計画し、同部落区長の木村喜重らが千葉県にこの払下げを働きかけた。そして、昭和三〇年一月五日、丹波山部落は千葉県から本件土地の払下げを受け、同年一月二七日に同部落区長木村喜重の名義で所有権移転登記が経由された。

(3) 右のとおり、本件土地の所有権はもともと丹波山部落の部落有とされたものであり、法的には総有と解され、個々の部落住民及びその権利の承継人は個別的所有権を主張しえないものであった。

(二)前述の道路計画は、その後実現の具体策を見出せないまま時が推移していたところ、昭和四二年七月四日に、突然、三里塚空港の建設が閣議決定され本件土地が同空港施設の関連用地とされるに至った。

丹波山部落住民ほかの三里塚住民は、右空港が住民の暮らしと生活を破壊するものであるとの認識で一致し、空港建設に反対する活動を開始し、昭和四二年七月一〇日、三里塚芝山連合空港反対同盟が結成された。そして、右住民らは政府及び原告による違法不当な土地の買収や収用を拒否するため、三里塚空港予定地内の共有地を自主的に管理し使用することを目的とする「三里塚地区周辺に土地をもつ会」(以下「土地を持つ会」という。)を昭和四二年夏頃結成した。

土地を持つ会の趣旨に則り、昭和四二年八月頃、丹波山部落は部落住民の総意をもって本件土地を右会に提供し、被告熱田外四九名は、本件土地の共有持分権を取得し、その登記を経由した。

2  本件土地の共有持分権の特質

1に述べた本件土地の共有に至る経緯及び「土地を持つ会」の規約によれば、本件土地の共有持分権の特質は、次のとおりである。

(1) 会員(共有持分権者)は、会の共有地に対する持分を処分したり、清算前に会の共有地の分割を求めてはならない。

(2) 本会は、三里塚空港建設の予定が完全に撤廃されるまで存続し、会員は右期間内には任意に脱退することはできない。

(3) 会員は死亡等の事由によって脱退し、脱退したときは、共有地の持分は元の土地提供者に対し放棄するものとする。

(4) 三里塚空港建設の予定が完全に撤廃されて本会が解散したときは、会員はその共有地の持分を元の土地提供者に対し放棄するものとし、ただちにその旨所有権移転の登記手続をなすものとする。

3  持分権譲渡禁止及び共有物分割禁止の特約

(一) 1、2に述べたところによって明らかなとおり、土地共有者の間には、共有持分権の譲渡禁止の特約及び共有物分割禁止の特約が存在していた。

(二) そして、「土地を持つ会」の結成は、三里塚住民の全体に公然と呼びかけられ、その趣旨内容は広報されていたのであるから、原告が、右の各特約の存在を知悉していたことは明らかである。原告は、このように、右特約の存在を知りながら、共有持分権者である被告ら七名に敵対する立場に立って持分権を取得したものであるから、背信的悪意者である。

従って、原告は共有持分権の取得を被告ら七名に主張することはできず、また、被告ら七名は分割禁止の特約が登記されていると否とに拘わらず、右特約をもって原告の共有物分割の請求に対抗することができる。

二  共有持分権の騙取

原告の主張する共有持分権は、その個々の取得経緯を見ると、売主たる共有持分権者を錯誤に陥れて取得したものが少なくない。例えば、尾野孝の共有持分権の移転(甲第一号証の登記順位番号五番の登記)は、原告が同人の相続人である尾野はる外三名に対し「横堀墓地の買収、移転に必要である」との虚偽ないし無用の事実を告げて同人らから交付を受けた委任状、印鑑証明書を流用してその登記を経由するに至ったものである。

従って、原告は実体的には無権利者であり、またこのような不正、不当な方法によって取得した原告の共有持分権は、これを被告ら七名に主張することはできない。

三  権利濫用

仮に以上の主張が認められないとしても、前記一の本件共有関係発生の経緯、原告が本件土地を管理し、使用する現実の必要性を有していないこと、被告熱田らは本件土地上に本件建物を建設し、広く住民の利便に供して現に使用していること、本件土地上の雑木の伐採等の管理は被告熱田らがすべて行い、原告はこれまで共有持分権者としての義務を何ら履行してこなかったこと等の一切の事情を考慮すれば、原告の共有物分割の請求は権利の濫用として許されない。

四  本件土地の分割に関する被告らの主張

仮に、前記一ないし三の主張が認められず、本件土地が分割されるべきものであるとすれば、これに関する被告らの主張は次のとおりである。

1  共有土地を現物分割するについては、単に持分に応じた面積比で土地を分割すればよい、というものではなく、共有者らの使用の現況に対する現況維持の配慮と、面積比による形式的平等ではなく、価格比の実質的平等の実現を図り、かつ、分割後においても、現実的に土地に対する使用収益が実現できるような分割方法がとられなければならない。

2  本件土地の現物分割にとって問題となる第一点は、本件土地は一辺でのみ公道に接し、かつ奥行が極めて長いという、接道条件及び地形に係わって生ずる奥行減価の問題である。とりわけ、接道する一辺が極めて短距離であることを考えれば、奥行減価率は最奥部ではゼロに近い逓減、しかもそれは最奥部への平均的な漸減ではなく、一定部分からの急激な逓減で考えなければならないということである。

このような特性を持つ本件土地を、実質的平等を確保しつつ分割する方法は二つである。

(一) 第一の方法は、端的に分割後の両地がともに接道面を含むものとすることである。これは接道の一辺及び最奥部の一辺を持分比で分割し、その二つの分割点を途中の地形に合わせて平行的に結んで分割するものである。

(二) 第二の方法は、本件土地の各部分に奥行減価残率を乗じて各部分の経済的価値を算出し、その経済的価値の合計を持分比で分割し、それを現実の二団の土地面積に還元し直すものである。但し、この方法による場合には、奥の部分は完全な袋地となり、袋地のままで公道に通ずる通路の通行権が確保できなければ経済的価値は無に近くなってしまうので、接道側の土地は奥の土地に対して通行権を負担しなければならないことになる。

3  被告らの求める第一の現物分割の方法は、被告ら七名が本件土地を貸与し、反対同盟が現実に本件建物を建てて使用し、かつ被告ら七名も本件建物を使用しているので、当然のことながら本件建物の敷地を含む部分を取得できる方法であり、それは前記2(二)の方法によることになる。この場合には、前述のとおり奥行減価を考慮して分割後の面積は小さくなってもよいし、かつ奥の部分である袋地を取得することになる原告に対しては公道への通行権を当然に負担するものである。この方法が、袋地を生ずる現物分割の方法は一般的には不適当・不相当である点を除けば最も現況維持的であり、かつ実質的に平等である。

4  被告らの求める前記3の第一の方法が原告の事情によって困難であると認められるならば(そのような事情があるとは思えないが)、被告ら七名の使用収益の現況にも拘らず、形式的かつ実質的な分割方法である前記2(一)の方法によることを求める。これによれば、被告ら七名は反対同盟の建てた本件建物の敷地を一部失ない、極端に細長い土地とならざるを得ないが、それでもそれに応じた使用収益の方策は十分にあるので、右方法は甘受せざるを得ないと考えているものである。

5  原告において、どうしても接道部分側の土地全部を取得しなければならない已むを得ない事情があるのであれば(そのような事情があるとは思えないが)、前記2(二)の方法によらざるを得ないが、被告ら七名が取得する土地については奥行減価の関係で当然面積比は大きくならなければならないし、原告が被告ら七名に対して公道に至る通行権を負担しなければならないことは言うまでもない。

6  いずれにしても、原告の主張する分割方法は、全く形式的な面積比により、かつ被告ら七名を袋地に押し込め、分割地の事実上の使用収益を不可能とするばかりではなく、経済的価値としても無価値に近いものを押し付けようとするものであって、到底認められるものではない。

なお、本来的に言えば、共有地分割では袋地、囲繞地が生ずる分割方法は不適当・不相当であって、本件に即して言えば前記2(一)の方法をとるべきであるが、どうしても袋地が生ずる方法による場合には、分割方法として囲繞地通行権の明示が必要であると考える。

7  原告は、本件土地が奥側(本件土地の北端部分)においても農道と接しており、公道との通行が確保されていると主張するが、これは誤りである。

別紙図面(5)の通路Aについては、その入口付近までがすべて原告所有地となっており、通路B、C、Dはいずれもその法律関係は不明だが実際上図面外で行き止まりになっており、その先は公路に通じていない。

五  建物収去・土地明渡請求について

1  原告の建物収去土地明渡請求は、本件土地については分割後の当該土地の単独所有権に基づく妨害排除請求としてしか考えられないが、原告に分割後の当該土地の単独所有権が生ずるのは、本件建物の敷地部分を含む部分を原告が取得する分割方法による共有物分割の判決が確定した段階であって、本件訴訟の口頭弁論終結時には右単独所有権は生じていないのであるから、右単独所有権に基づく建物収去土地明渡請求はそもそも理由がない。

2  本件建物の所有権は、前記のとおり被告熱田ではなく被告熱田が代表である反対同盟にあり、従って被告熱田に対しては建物収去請求権は存在しない。

3  仮に、右各主張が認められないとしても、前記三と同一の理由により、原告の建物収去、土地明渡の請求は権利の濫用として許されない。

第五  被告らの主張に対する原告の答弁

一1  被告らの主張一1(一)の(1)の事実は認める。同(2)のうち、本件土地周辺の耕作者であった丹波山部落住民が昭和三〇年頃、本件土地の形状(長大な土手地)を生かしてこれを道路とすることを計画したこと、昭和三〇年一月二七日、本件土地につき、木村喜重の名義で所有権移転手続が経由されたことは認め、その余の事実は否認する。木村喜重は、丹波山部落の区長としてではなく、個人として千葉県に対し、本件土地の払下申請を行ったものである。従って、千葉県から本件土地の払下を受けたのは丹波部落ではなく、木村喜重個人である。同(3)の事実は否認する。

同一1(二)のうち、昭和四一年七月四日に三里塚空港の建設が閣議決定されたこと(被告らは昭和四二年七月四日というが、正しくは昭和四一年七月四日である。)本件土地が同空港施設の関連用地とされるに至ったこと、昭和四一年七月頃に三里塚芝山連合空港反対同盟が結成されたこと、その頃一部住民により新空港建設反対運動が開始されたこと、昭和四二年八月頃被告熱田外四九名が本件土地の共有持分権を取得し、その登記手続を経由したことは認め、その余の事実は不知ないし否認する。

2  同一2の事実は否認する。

3  同一3は争う。

被告らは、「土地を持つ会」の規約上、本件土地について持分権譲渡禁止及び分割禁止の各特約がされており、原告はその共有持分権の取得を被告らに主張できないというが、原告は、土地を持つ会や同会の規約の存在には一切関知しないところであり、たとえ被告らの主張するように土地を持つ会あるいは同会の規約上右各特約が存在したとしても、次に述べるとおり、善意の原告が本件土地の共有持分権者と正当に締結した持分権の売買契約に何ら影響がない。

(一) 持分権譲渡禁止特約については、かような特約が共有者間において存在したとしても、それは特約当事者間における債権的な効力を有するにすぎず、第三者の持分権取得を否定しうるような物権的効力を有しないことは明らかであり、被告らの主張は失当である。

(二) 分割禁止の特約が共有者間において存在したとしても、共有物が不動産である場合には、対抗要件として登記の記載が必要であり(不動産登記法三九条の二後段参照)、本件土地について被告ら七名が不分割特約の登記を行っていないことは明らかである。また、右特約の期間は五年を超えることはできず、更新をしても更新の時から五年を超えてはならない(民法二五六条)。被告らの主張によれば、本件土地の不分割を定めたのは昭和四二年であって、原告が本訴を提起した昭和五九年の時点においてすでに一七年もの年月が経過しており、同特約は期間満了により失効していることが明らかである。

二  被告らの主張二は否認する。

尾野孝の相続人のうち尾野はる、野口公子、鶴島操子については、そもそも横堀墓地の持分権の買収は行っていないことから、また、尾野重雄については本人自ら原告と同墓地の持分権売買契約を締結していることから、被告ら主張のような事実は全くない。原告は、尾野はるほか三名と適正に売買契約を締結し、持分権を取得したのであり、被告ら七名にその権利を主張できることは明白である。

三  被告らの主張三は否認する。本件建物を建設したのは被告熱田である。

本件土地は新空港及び航空保安施設の建設予定区域並びに騒音区域に所在することから、原告が平成二年度末までの完成を目途に逐次整備を行っている新空港及び航空保安施設建設用地として必要不可欠な土地であり、他方、本件建物は、被告熱田が本件土地の共有持分権の大半を所有している原告に無断で、かつ、原告の警告を無視して建てたものであって、まさに被告ら七名が共有持分権を逸脱し、空港反対運動の一つの拠点として排他的に使用しているものである。原告は、正当な権限に基づき、新空港を建設する必要上、分割請求に及んだものであり、権利の濫用に当たらないことは明白である。

四  被告らの主張四は争う。

分割方法についての被告らの主張は、次に述べるとおり本件土地が共有化された経緯及び本件建物が建設された経緯等を全く無視したものであって失当である。

1  本件土地の共有化は、もともと原告の行う新空港の建設を困難ならしめる目的で行われたものであり、通常の経済的使用収益がされていたものではない。

2  被告らは、本件土地が一辺でのみ公道と接していると主張するが、本件土地は奥側(北側)においても農道(いわゆる赤道)と接しており、更に公道との関係については、別紙図面(5)でAと表示した道路は、原告の工事用道路を経由して県道成田、小見川、鹿島港線と連絡している。右工事用道路が原告の新空港建設事業の都合上、廃止又は一般の通行を遮断されるときは、当然原告においてこれに代わる道路を設置して公道との連絡が確保されるのであるから、本件土地の奥側部分が袋地になることはありえない。

3  被告らは、奥行減価を主張するが、右のとおり被告ら七名の取得すべき土地も接道しているし、そもそも被告の主張する奥行減価の考え方は、本件土地の現況及び沿革からして考慮に価しない。

4  被告らは、反対同盟が現実に建物を建て、被告ら七名がこれを使用している旨主張するが、そもそも本件建物は、本件土地の大半の持分を有する原告に無断で、かつ、原告の警告を無視して被告熱田が建ててしまったものでこのような不法行為によって作出された現状が維持されるべき必要性はない。

5  被告らの主張する第一の分割方法は、幅が広い部分で約二メートル、狭い部分では約一〇センチメートルという経済的に全く無価値というべき土地を作出する非常識な方法である。

五  被告らの主張五は争う。

1  本件建物の収去と土地明渡の請求は、原告が訴求する本件土地の分割の判決が確定し、原告が本件建物敷地に対する単独所有権を取得することを条件とする請求であり、当然に許されるものである。

2  本件建物の所有権は、既に主張したとおり、被告熱田である。このことは、本件建物に架設されている電話、電気の名義人が被告熱田であることからも明らかである。

3  権利濫用の主張が失当であることは、三に主張したところと同一である。

第六  証拠関係〈省略〉

理由

第一  共有物分割請求に対する判断

一  原告の地位等について

新東京国際空港公団法によれば、原告は、同法に基づき、新空港の設置及び管理を効率的に行うこと等により、航空輸送の円滑化を図り、もって航空輸送の総合的な発達に資するとともに、我が国の国際的地位の向上に寄与することを目的として、昭和四一年七月三〇日に設立された法人であって、右の目的を達成するため新空港の設置及び管理を行うこと等をその業務とするものである。

二  本件土地の形状等について

請求の原因二の事実中、本件土地の形状が概ね別紙図面(3)、(4)に示すとおり、帯状の土地であることは当事者間に争いがない。

三  本件土地とその共有持分について

1  請求の原因二1のうち、本件土地がもと総員五〇名の共有地(持分均等)であったこと、被告ら七名が本件土地につき、各自五〇分の一の持分を有することは当事者間い争いがない。

2  そこで、原告の共有持分権の買受について検討する。

(一) 〈証拠〉によれば、別紙持分権譲渡一覧表における菅谷忠良外五四名の共有持分権者が、木村喜重に対し、本件土地の共有持分を原告に売却して、その代金を領収する旨の代理権を授与したこと、原告は、右代理人木村喜重を介して、別紙持分権譲渡一覧表に記載のとおり、(1)昭和五六年五月一日菅谷忠良外二一名の者から同表に記載の各持分権を代金合計三九〇万〇一八二円で買い受け、(2)同年七月二一日石井良雄外四名の者から同表記載の各持分権を代金合計六四万三〇七一円で買い受け、(3)昭和五七年三月八日高梨祐治から五〇分の一の持分権を代金二一万四三五七円で買い受け、(4)同年一〇月一九日岡野廣外一七名の者から同表記載の各持分権を代金合計二四〇万九四〇八円で買い受け、(5)同年一一月八日早野廣司から五〇分の一の持分権を代金二一万九〇三七円で買い受け、(6)昭和五八年九月一九日、同年一二月九日、昭和五九年一月一二日、同年一月一九日それぞれ小俣五郎、高仲五郎、吉野正、高仲勇から、いずれも五〇分の一の持分権を、二二万二五二四円で買い受け、(7)昭和五九年三月二六日辻正男外二名の者からいずれも五〇分の一の持分権を代金合計六六万七五七二円で買い受け、(8)昭和五九年六月二五日鈴木茂から五〇分の一の持分権を代金二二万二五二四円で買い受け、順次持分権移転登記を経たことが認められる。

(二) 被告らは、共有持分権の売買契約は存在せず、また、木村喜重は代理権を有していなかった旨縷々主張し、〈証拠〉中には、これに副う供述部分があるが、前掲各証拠に照らして措信できず、他に前記認定を左右する証拠はない。なお、代理人木村喜重がその後その代金を各共有持分権者に渡したかどうかは共有持分権者と代理人木村喜重との委任関係上の問題であり、売買の効果には影響がない。

3  次に、被告らは、本件土地の範囲が特定していない旨主張するので、この点について検討する。

(一) まず、〈証拠〉によれば、本件土地のうち、多古町側(東側)の境界については境界石が設置されており、別紙図面(1)における29ないし67の各点を順次直線で結んだ線がその境界であることは明らかである(被告らも本件土地と多古町側の境界については明らかに争わない。)。

(二) 次に成田市側(西側)の境界についてみるに、証人井上光正の証言によれば、原告は本件土地の成田市側の隣接地の買収を進め、かなりの部分を買収した昭和四五年一〇月頃、原告の職員である井上光正らが土地収用法(一一条)に基づく立入調査及び測量を行い、その際隣地との境界について、本件土地が細長い土手状の雑木林であり、隣地の畑部分とは地目及び地勢からその区分が明確であったこと、隣地買収の際に各所有者から境界について確認していたことを参考にして右測量が行われたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない(なお、〈証拠〉によれば、公団による右測量の直前である昭和四五年八月二四日に撮影された本件土地の航空写真において畑部分と土手状部分とが明瞭に区分されうることが示されており、このことは右井上証言の信憑性を裏付けるものである。)。そして、〈証拠〉によれば、鑑定人中野裕之は、測量の際、多古町側の境界石は確定できたが、成田市側の境界が不明であったため、原告から提出を受けた図面(昭和四五年頃原告が行った測量をもとにして作成された図面)や現地における境界石の存在等を参酌した上本件土地の範囲を測定して鑑定図面を作成したこと、別紙図面(1)は、測量士小澤瑞男が右鑑定図面に基づいて本件土地の範囲を明らかにするために作成したものであることが認められ、この認定を左右する証拠はない。

(三)そうすると、千葉県成田市東峰字松翁一三三番の土地は、別紙図面(1)の1ないし68、1の各点を順次直線で結んだ範囲の土地であって、その範囲は特定しているものというべきである。

(四) 被告らは、登記簿上の面積(前掲甲第一号証によれば五四一一平方メートル)と実測面積(三七九二・三七平方メートル)とが著しく異なっている旨主張するが、本件土地のように地目が山林でしかも相当広大な土地にあっては、往々にして登記簿上の面積と実測面積との間にかなりの差異が生ずる場合のあることは経験則上認められるところである。被告らは、隣地所有者が長年に亘り継続的に本件土地を侵触してきたと主張し、証人堀越昭平の証言中には右主張に副う供述部分があるが右供述は極めて漠然としたものである。そうすると、これらの点は、前記認定を覆すに足りない。

四  本件土地の持分権譲渡禁止及び共有物分割禁止の特約について

1  まず、本件土地が共有地となった経緯についてみるに、〈証拠〉によれば、次の事実が認められ、右被告らの各本人尋問の結果中この認定と異なる部分は、前掲証拠に照らして措信できず、他にこの認定を左右する証拠はない。

本件土地は、もと国の所有地であったが、昭和八年三月二〇日千葉県が国から払下げを受け、昭和二七年六月二〇日受付により、その旨の登記がされた。その後、本件土地周辺の丹波山部落の区長木村喜重が本件土地を道路として部落に払下げを受けようと図ったが、部落民全員の同意が得られず、結局、木村喜重個人が昭和三〇年一月五日千葉県から右土地の払下げを受け、同年一月二七日受付によりその旨の登記がされ、昭和四一年六月、同人は、息子木村清治の物上保証人として本件土地に成田信用金庫のために根抵当権を設定して、その旨の登記を経た。ところが、昭和四一年に三里塚地区の住民の一部が中心となって、新空港建設反対運動を展開するために反対同盟が結成され、反対同盟は空港建設反対闘争の一環として本件土地を共有化しその持分を反対派の人に配分する、いわゆる一坪運動を行うこととした。即ち、反対同盟は、木村喜重にはたらきかけ、本件土地に設定されていた前記根抵当権を抹消するために木村喜重に二〇万円を貸与し、木村喜重は昭和四二年八月本件土地を岡野廣外四九名の反対同盟を中心とした人々に譲渡し、同年一一月二五日受付により同年八月二六日付売買を原因とする持分権移転登記(持分各自五〇分の一)を経た。一方右岡野廣外四九名の共有者は、すでに「土地を持つ会」を結成し、その会則において、共有持分権の処分及び共有物分割を禁ずる旨を定めていた。

2  右認定事実によれば、昭和四二年八月本件土地の共有者間に本件土地の持分権譲渡禁止及び共有物分割禁止の合意(特約)がされたものというべきである。

3  原告が、その後本件土地の共有持分権のうち五〇分の四三を昭和五六年五月一日から昭和五九年六月二五日までの間に順次売買によって取得し、その旨の移転登記を経たことは、既に認定したとおりである。

4  ところで、共有持分権は、所有権の実質を持つものであって、自由に譲渡できるのであるから、共有者間において譲渡禁止の特約をしたとしても、それは共有者間における債権的効力を有するにとどまり、たとえ、原告が、右事実を知って買受けたものであるとしても、右売買の効力は、右特約によって影響を受けるものではない。

5  次に、共有物の分割請求は、何時でもできるのが原則であるが、五年を超えない期間内分割をしない契約をすることができる(民法二五六条一項)。右契約は更新することができるがその期間は更新のときから五年を超えることができない(同条二項)。また、右分割をしない契約、即ち分割禁止の特約は、これを持分権の譲受人に対抗するためにはその旨の登記が必要である(不動産登記法三九条の二但書参照)。

前記認定の事実によれば、昭和四八年八月に共有物分割禁止の特約がされたものであるが、現在においてはもとよりのこと原告が本件土地の持分権を取得した昭和五六年五月ないし昭和五九年六月当時においても、右共有物分割禁止の特約の効力が存続し、かつ、原告に対抗することができる事実について、主張、立証がない。

6  以上のとおりであるから、本件土地の持分権譲渡禁止及び共有物分割禁止の特約に関する被告らの主張は採用できない。

五  共有持分権の騙取の主張について

被告らは、原告が売主である本件土地の共有者を錯誤に陥れて持分権を取得したものが少なくないと主張する。

しかし、右主張を認めるに足りる証拠はないから、被告らの右主張は採用できない。

六  権利濫用の主張について

被告らは、本件土地について共有物分割を請求するのは権利の濫用である旨主張するが、後記第二の五に述べるところと同一の理由により、右主張は採用できない。

七  本件土地の分割方法について

以上のとおり、原告が本件土地の共有持分五〇分の四三を取得したことに対する被告らの主張はいずれも理由がなく、また、本件土地の分割について、原告と被告らとの間に分割の協議が調わないことは当事者間に争いがない。

そこで、本件土地の分割方法について検討する。

1  前記とおり、本件土地の形状及び位置関係が、概ね別紙図面(3)、(4)に示すとおり帯状の土地であることは、当事者間に争いがない。

2  次に〈証拠〉によれば、本件土地のうち別紙図面(1)の〈A〉部分の土地は新空港敷地として、また、同〈B〉部分の土地は航空保安施設敷地として、いずれも原告が空港開設工事を行う上で必要不可欠な土地であることが認められる。そして、新空港が航空輸送の確保、充実を図るために高度の公益性、公共性を具備するものであり、その空港開設、拡張に伴う用地の確保は、本件土地の共有物分割にあたって十分に考慮されなければならないものである。

3  一方、後記のとおり、右〈A〉部分土地の南端部分には、被告熱田所有の本件建物が存在する。

しかしながら、本件証拠を検討しても、被告ら七名が本件建物の敷地部分を建物の所有等を目的として使用することのできる権原を有すると認めるに足りない。却って、後記第二の一に認定のとおり本件建物は、昭和五九年六月頃に、当時少なくとも五〇分の四二の共有持分権を有するに至っていた原告の抗議ないし警告を無視して建築されたものであり、このような経緯をも併せ考えると、本件土地の分割に当って、本件建物の存続を考慮するのは相当でない。

4  本件土地は、前記のとおり新空港建設反対闘争の一環として共有化されたものであり、〈証拠〉によれば、共有者らは、本件土地を経済的に使用収益するという目的は当初から有しておらず、現在でも本件建物の敷地部分を利用していること以外に被告らがこれを経済的に使用収益していないことが認められる。そして、被告佐藤陽一本人尋問の結果によれば、被告熱田を除くその余の被告ら及び選定者ら六名は、現在では、被告熱田とは所見を異にし、空港周辺の防音堤、防音林、農道の整備等が行われれば、本件土地の持分権の譲渡ないし分割に応ずる用意があることが認められる。

5  以上諸般の事情を総合考慮すると、本件土地についてはその持分割合に応じ、空港敷地、航空保安施設敷地及びこれに近接する部分合わせて五〇分の四七を原告の所有とし、その余、即ちこれら施設から遠ざかる部分を被告らの共有とするよう分割するのが相当である。

ところで、前掲甲第九号証によれば、本件土地の実測面積は三七九二・三七平方メートルであることが認められるから、本件土地を持分の割合に応じて分割すると、原告の取得面積は三二六一・四三平方メートル(小数点第三位以下切捨)、被告らの取得面積は五三〇・九三平方メートル(小数点第三位以下切捨)となる。

そうすると、別紙図面(1)において1ないし23、35ないし68、1の各点を順次直線で結ぶ範囲の土地(別紙図面(1)の〈A〉、〈B〉及び〈C〉部分、三二六一・四四平方メートル、主文第一項の甲部分)を原告に、同図面(1)において23ないし35、23の各点を順次直線で結ぶ範囲の土地(別紙図面(1)の〈D〉部分、五三〇・九二平方メートル、主文第一項の乙部分)を被告らにそれぞれ分割するのが相当である。

6  分割に関する被告らの主張について

(一) 被告らは本件土地が南側の部分のみが公道に接しているとして、本件土地を縦長に平行的に分割すべきである旨主張する。

しかし、本件土地は再三述べたとおりほぼ南北に長く東西に短い極めて細長い帯状をしているのであるところ、右方法はこの土地をさらにほぼ南北の線で分割するものであり、土地の利用上極めて不合理な分割方法であり、採用の限りでない。

(二) 被告らは、本件土地の南側だけが公道に接しているとして、本件土地を南側部分と北側部分とに分割する場合、北側部分の土地について奥行減価を施した上で面積を決すべきであり、また、北側部分の土地が袋地になるから、その土地のために南側部分の土地について通行権を設定すべきであると主張する。

しかし、〈証拠〉によれば、本件土地の北側部分は、別紙図面(5)に示すとおり、東側にほぼ南北にはしる通路Dに接し、通路Dは、その北側においてほぼ東西にはしる通路A及びBに接していること、そして右通路Aは西方向において舗装された道路に通じていることが認められる。そうすると、本件土地の南側のみが公道に接しているという被告らの主張は失当であり、右主張を前提とする奥行減価の主張及び通行権の主張も失当である。なお、被告らは、別紙図面(5)の通路Aについて、通路Dに接する付近までがすべて原告の所有地であると主張するが、通路Aが前記舗装道路に通じている以上、その所有権者が何人であっても、他に特段の事情がないかぎり先の結論を覆すに足りない。

(三) 被告らのその余の主張は、前記1ないし3に述べたところに照らして採用できない。

八  そうすると、被告ら七名は、本件土地のうち主文第一項記載の甲部分の土地につき、前記のとおり分割されることを条件として、分筆登記をした上、原告に対し、甲部分の土地につき各自その持分(五〇分の一)の移転登記手続をする義務がある。(なお、被告ら七名は、本件土地の共有物分割及び分割後の所有権に基づく分筆登記、移転登記請求を争っているのであるから、原告が予め、分割を条件とし分割後の単独所有権に基づいて甲部分の土地につき、分筆登記をしたうえ、各自その持分の移転登記請求をすることは可能である。)。

第二  建物収去、土地明渡請求に対する判断

一  本件建物の建築、所有権について

1  本件建物が昭和五九年六月末頃建築されたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、本件建物は、昭和五九年当時、反対同盟(なお、反対同盟が社団性を有すると認めるに足りる証拠はない。)の代表格であった被告熱田が中心となって、建築されたこと、右建物の建築の事実を知った原告は、当時少なくとも五〇分の四二の共有持分権を有する共有者となっていたことから、係員を現場に赴かせて被告熱田に対し原告に無断で建物が建築されていることに抗議すると共に、内容証明郵便をもって警告を発したが、建築はそのまま続行され、本件建物が築造されたこと、本件建物には居住者はいないが、電気、電話が架設され、その名義人は被告熱田であることが認められ、この認定を左右する証拠はない。

2  右認定の事実によれば、本件建物の所有者は被告熱田であると認めるのが相当であり、また、本件建物が五〇分の四三の共有持分権を有する原告の意に反して建築されたものであることは明らかである。

二  本件建物の位置関係について

〈証拠〉によると、本件建物の位置関係は別紙図面(2)に示すとおりであり、本件建物即ち別紙物件目録三及び四の建物は、いずれもその大部分が本件土地の南端部分に存在するが、西側の若干部分が別紙物件目録二に表示の成田市東峰字松翁一五一番の土地に及んでいることが認められ、この認定を左右する証拠はない。

三  本件土地のうち本件建物の敷地部分を含む南側部分三二六一・四四平方メートルは原告の所有とすべきものであることは、前記第一に詳細判示したところである。

四  別紙物件目録二の土地の所有権について

〈証拠〉によれば、別紙物件目録二記載の土地は、もと椎名新治の所有であったが、昭和四四年一二月二三日原告が右椎名から買収したことが認められ、この認定を左右する証拠はない。

五  権利濫用の主張について

本件土地のうち、別紙図面(1)の〈A〉部分の土地が新空港敷地として、また同〈B〉部分の土地が航空保安施設敷地として空港開設工事を行う上で必要不可欠なものであること、新空港が航空輸送の確保、充実を図るために高度の公益性、公共性を具備するものであることは、叙上のとおりである。一方、被告ら七名が本件土地の共有特分権を取得した経緯は前記のとおりであり、被告ら七名は、共有特分権を取得して後、本件土地上に本件建物を建築して本件土地を利用している外は、本件土地を経済的に使用、収益しているものではないこと、そして、本件建物は少なくとも五〇分の四二の持分権を有していた原告の抗議ないし警告にも拘らず建築されたものであることは既に認定したとおりである。

このような事実に徴すれば、建物収去、土地明渡の請求が権利の濫用に当らないことは明らかである。

六  以上のとおりであるから、原告に対し、被告熱田は本件建物を収去し、被告らは本件土地のうち甲の土地を明渡す義務がある。(なお、被告らは、本件土地の共有物分割及び分割後の所有権に基づく明渡等の請求を争っているのであるから、原告が、予め、分割を条件とし分割後の単独所有権に基づいて建物収去、土地明渡を訴求をすることは可能である。)

第三  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清野寛甫 裁判官 丸山昌一 裁判官 澤野芳夫は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 清野寛甫)

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